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虚け者のぼやき


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思い出の大和

大和舍(やまとや)



紀元二千六百七十四年九月十七日






 北海道勇拂郡穗別町稻里道有林番外地、現在穗別

町はむかわ町と合併し穗別町は存在しない。

 その稻里道有林番外地に昭和三十二年から四十三

年迄十年と十餘月の間存在した大和(だいわ)鑛業株

式會社稻里坑業所、所謂(いわゆる)大和炭坑である。

 大和(だいわ)炭坑開坑當初から學校設立に盡力し

た初代校長大澤勘太郎先生に學び、人として生きる

基本を身にした愚性にとつての故郷である。

 通稱大和(だいわ)と言われ人里離れた山奧に開坑

した炭坑集落である。當然そこに働く人々は眞面目

な勞働者が多くゐたが、世におられぬ無頼漢(ぶらい

かん)、流れ者と言われる者、亦、アイヌ、中国人、

朝鮮人も多くゐた。然し、差別などは聞いたことは

ない。確かに治安は頗る良いとは言へぬが、家に鍵

など掛ける家など無かつたやうに互が助け合ひ日々

の暮しを育んでゐたのだ。

 町場の人々からは流れ者の吹き溜りで危險な処、

近づくべからず、又そこの者とは附合ふべからずと

言われたが、決して愚生はそうは思はなかつた。

確かに休日ともなれば酒に醉ひ喧嘩沙汰、それも

日本刀を振囘し、切つた張つたもあり、怪我人を

トラツクの荷臺に乘せ隣町登川の診療所へ運んだこ

とも數多あつたが、當時はそれが普通だと思つてゐ

たのである。火事と喧嘩は江戸の花と言はれるやう

に大和も活氣ある処だと思つてゐた程である。

 今思へばそれも特殊な環境であつたことは歪めな

い、然し、幼少期からそのやうな環境にあればそれ

も又至極當然のことであらう。

 このやうな中、大和小中學校全校生徒百六十有餘

名、教員は校長、教頭を除いて十五名程。小生の

クラスは十六名、皆兄弟のやうなものであつた。

亦、どの家も鍵を掛ける必要もなく常に開け放され

てゐた。然し乍ら竊盜などは一度も無かつたと記憶

してゐる。

 そのやうに僻地ではあつたが長閑で心豐かな人々

が活きる集落にある學舍から大和舍と言ふ屋號を

取つた。



思い出の大和_e0209864_14402786.jpg


思い出の大和_e0209864_17211972.jpg
     
在りし日の大澤勘太郎校長


思い出の大和_e0209864_17383650.jpg
       大和小中学校跡石碑







 今は亡き大澤勘太郎校長の記念誌への思ひ。

「長い間大和に活きた人々は、ヤマ(炭鉱)の燈は消えても

、心の燈は何時までも燃え續ける事を念願してゐる

時に附け、折に觸れ、この記念誌に在りし日の

大和を偲んで頂きたい」 この記念誌が出されたこ

とを小生は知らず二十數年の時が経ち、知り得た時

には涙したものである。


 今は、國道二百七十四號線が整備され集落の跡形

もなく約六百有餘名がそこに暮らしてゐたなど露程

も思へぬ雜木林となつてゐる。唯一そこが大和だっ

たことを示すものが國道に掛かる小さな橋の名稱が

大和橋である。四十六年が過ぎ、何故か國道沿ひに

廣く駐車帶が設けられてゐる。未だに時折その場に

立ち涙する人を見ると土地の人は言ふ。





思い出の大和_e0209864_17225113.jpg
   唯一大和の名殘である大和橋。



思い出の大和_e0209864_17240611.jpg
國道274號線下り夕張市登川を過ぎむかわ町に入り

1キロ程進めば左側に駐車帯がある。

駐車帯右側、川の向こうに平らなところが見える、

そこが大和小中学校があった場所で石碑がある。
























by iamhide3897 | 2014-09-17 14:41 | 大和舎 | Trackback | Comments(0)
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